東京ノート再演 私の稽古日記

トップページに戻る

平田オリザの代表作「東京ノート」は、1994年に青年団第27回公演として初演され、1998年に同第34回公演として、名古屋市をはじめ全国各地で上演されました。これはその再演時の私の稽古日記です。公演自体は1998年4月以降も続きましたが、ここには同年3月の東京公演終了までの日記を掲載しました。

1997年1998年
11月12月1月3月
1998年2月は、稽古なし

1998年 3月


3月1日(日)

名古屋公演の後、きょうから稽古再開。朝、外を見ると雪が積もって、まだ降っていたので驚いた。
雪のため来れない人や他に客演中の人のシーンを抜かして、全シーンを稽古。
ラストシーンで、「もらったブローチは、付けてみたけど、いま着ている服に似合わないから外しちゃった」という意味の台詞が加わった。私の衣装に合わせて小道具のブローチを買ってきていた登喜子役の人が、ショックを受けて(?)いた。
いま入団のためのワークショップの期間中で、きょう何人かの人が稽古を見学に来ていた。ラストシーンを見て泣いた、という人がいた。


3月5日(木)

渋谷から貸し切りバスで、宮城県大河原町に向かった。定員が30人ちょっとくらい。路線バスと同じサイズだろうか?ワゴン組と携帯電話で連絡をとりながら行った。便利な世の中になったもんだ。
途中サービスエリアで昼食をとり、劇場到着後はすぐに仕込み開始。一階なので搬入は割と楽な方だったが、建物が円形と楕円形(大ホールと平土間ホール)なので直角な曲がり角が一つもなく、最初方向感覚がおかしくなった。大ホールバックステージの大鏡の中に進んでいきそうになったりした。


3月6日(金)

仕込みの続きの後、場当たり。ホール中央がドーム型に吹き抜けになっているので、声がわんわん響く。全然何しゃべってるんだかわからないんじゃないだろうかと不安になったが、後でスタッフに聞いてみたら、聞き取れないということはないとのことだった。


3月7日(土)

ゲネプロの後のダメ出しで「マチコの髪型は、それでいいの?」と演出に言われた。後ろ髪がもうパーマが落ちかけているのにムースをつけただけだったから、たぶんそれがいけなかったんだろうと思い、これからは前髪だけでなく後ろもしっかりブローすることにした。北限の猿のゲネプロで、化粧が濃くてシベリアンハスキーみたいだと言われたときのことを思い出した。
7時開演。妹の先輩で仙台に住んでいる人が、同僚の方と見に来てくれた。


3月8日(日)

青年団では、全員、年に一度主宰の平田オリザと1対1で面接を行う。今回、東京ノートのキャストは、きょう本番前に劇場で面接することになった。本番前の面接は、もう二度とやだ、と思った。
3時本番。その後ばらし。7時には、照明部隊も含め、全部終了。夜、貸し切りバスで帰路につく。早朝5時に倉庫着。


3月9日(月)

倉庫で積み替え作業をして、午前7時過ぎに解散。9時前に帰宅。少し眠ったが、階上でケーブルテレビの工事をしているらしく、電動ドリルの音がうるさくて寝ていられなかった。


3月10日(火)

スズナリ仕込み。9時搬入開始。新人の人がたくさん来ていて、ちょっと人見知りが出た。
1991年の初旅公演の時から、仕込みの時にはジャグでカルピスを用意している。最近は人気がなくて、仕込みのたびにカルピスがあまるので、今回こっそりやめてみた。
場当たりは、一場の終わりまで終了。


3月11日(水)

場当たりの続き。その後、稽古。スズナリだけに出演するキャストが2人いて、どこで出るか決めながら進める。そのうちの1人の登場シーンを繰り返し繰り返し稽古していて、最後には、一緒のシーンに出ている私ともう一人の俳優とが笑いがとまらなくなっちゃって(疲労と極度の繰り返しのため笑い病になったらしい)、8時に稽古が終わりになった。


3月12日(木)

ルーブルは大きい、というところで、来館者の1人のはける方向がかわったので、台詞が付け足しになった。
電動歯ブラシの入り方も、変更になった。「好恵さん電動歯ブラシって使ってる?」とだらっと入るように言われた。戯曲上、ここはつながっていないそうで、「書いてるときにここでトイレにでも行ったんだと思う」ので「適当にやっといて」くれと劇作家・演出家が言っていた。
ゲネプロ(7時開演)は、ビデオのクルーとかスチール撮影の人とか、劇団の新人とか、結構客席がいっぱいだった。「角」とポーズをとったところでシャッターがばんばん切られて、ちょっとあせった。


3月13日(金)

11時30分稽古開始。幕前からずっと続けて。「思ったよりすいてるし」「ゆっくり見れて」が固い、もっとだらっと、と言われた。ラストの「心でなんてどうやって見るの」の「どお」をのばさないで、というのも言われた。
初日。7時30分開演。冒頭好恵サンの顔がひきつっていた。初日にときどきそうなるみたいだ。途中、たぶん下の店からだと思うけど、焼き魚のにおいがした。「どうやって見るの」は短くしようとしてどーんと強くなってしまった。相手役に、「それまでいい調子で来たのにね」と言われた。
劇場でビールで乾杯。


3月14日(土)

12時掃除開始。11時30分頃入って、まずアンケートを読んだ。あれだけ笑っといてお姉さんのことは何もなしかよ、とちょっとがっかりした。
掃除、ミーティングのあと、今回増えたキャストのとこを稽古した。
3時開演。開場直前に小道具のバッグとカメラがないと大騒ぎして、開場を2分ほど押させてしまった。置き場を2カ所用意していたのが間違いの元だった。
芝居は、昨日の反応を期待してしまうところがあり、きょうはそれほど笑いが来なかったのでぎくしゃくした。間の悪いとこも少しあった。
私が以前いた劇団の人が見に来てくれて、近所の喫茶店で少し話した。
ソワレは7時開演。9時頃帰宅。自分で作るものがむしょうに食べたくて、あり合わせで炊き込みご飯を作った。


3月15日(日)

演出が不在のため、稽古なし。1時掃除。アンケートに一喜一憂。
昨日のマチネ、ソワレ、きょうのマチネ、と超満員だったが、きょうのソワレは客席が割とゆったりしていた。ぎゅうぎゅうだと暑くなるからイヤだ。
稽古中からずっとのどがイガイガして龍角散に頼っていた。きのうまで、出の前にはほとんど必ず龍角散を飲んでいた(それで、スカートにこぼしたりしていた)のだが、きょうは、半分そのことを忘れていたくらいで、龍角散なしで本番2回を乗り切ることができた。


3月16日(月)

きょうは休演日。趣味のパッチワークのメーリングリストの未読を消化。
マニュキュアを塗り直した。


3月17日(火)

12時に歯医者さん。右下の奥歯がときどき痛みそうになるので見てもらったが、大丈夫でしょう、でも痛んだらすぐ知らせてください、とのこと。きょうはクリーニングのみ。
きょうの集合は4時半。一場(中抜き)、パイロットカップルのところ、茂夫のいるとこを稽古。
7時30分開演。よく笑う人が数名いた。
ちょっと前半飛ばしちゃったような気がした。けんかのところですごく怒っていた、とか、新婚旅行の笑い声がすごく大きかった、と他の人から言われた。


3月18日(水)

一場はうまく行かなかった。最初の台詞のとこで、好きな美術館に来て好きな人と楽しい話をしている、という楽しい気分から始めなかったような気がする。いろんな段取りとか間とかはいつもどおりにやったけど、そういう技術的なことってグライダーが飛び立った後の舵取りなんであって、その前に「いつもの高さから飛ぶ」という基本的なことを確実にやらなかったらダメなんだ。相手役にも「言葉に力がなかった」と言われた。一度はけてからは持ち直せた。出番が多いと、こういうところは助かる。
東京ノートの英訳に関連して、星の王子さまでキツネが王子になんて言ったか(英語で)を調べた。"Little Prince"で検索したら、英語の全文が載ってるウェブサイトがあって、すぐわかった。ちなみにその、キツネのくだりは以下のとおり。

"Goodbye," said the fox. "And now here is my secret, a very simple secret: It is only with the heart that one can see rightly; what is essential is invisible to the eye."

3月19日(木)

ビデオの撮影日。1時集合。まだカメラのセットアップなどが終了していなくて、役者は舞台のみ(客席不可)でウォームアップ。最近稽古のないときは2時間前集合で掃除、ミーティングなので、アップの時間は実質開演1時間半前からで、私などはちょっとあわただしく感じていた。きょうは3時間前集合で、余裕を持ってできてよかった。たぶん、2時間半前集合くらいがちょうどいいと思う。
きのうのアンケートを見たら、自分では全然ダメだと思っていた回なのにお姉さんの評判がよかった。アンケートって、悪く書いてあれば、もっともだと思うこともあるけど、「アンケートを書くようなタイプの人はそう思うかもしれないが、普通の人はアンケートなんか書かない」とか思ったりするし、いいことが書いてあれば嬉しい。勝手だな、私。
4時本番。まぁ、普通。一場の初めでバイクの音がぶんぶんしていやだった。あと、深刻なシーンの辺りで5時のチャイムが鳴って、音響効果みたいでいやだった。
終了後、抜きで4カ所撮った。
8時本番。私と好恵サンは抜きで撮る4カ所とも出ていたので、きょうは休憩がほとんどなく、ソワレの頃には、「エンドレス東京ノートの悪夢」のような状態で、どのシーンはもうやったのか、これからどこなのか、とかよくわからなくなっていた。一場で出ていったら、客席に寝ころんでいる人がいてすごくびっくりした。ちょっと落ち着いたら、マイクを持った音声の人だとわかった。一度はけて楽屋に戻ったとき、これから登場する人たちに、「客席に音声の人が寝ころんでいるから、びっくりしないように」と伝えた。
きょうはマチネ、ソワレとも、お客さんが静かだった。数が少なかったのとカメラが入っていたのとが主な理由だと思うが、最近笑いに慣れていた自分を反省。


3月21日(土)

1時集合。マチネ3時開演。
ソワレ7時。本番中に下の店からカラオケの音がして楽屋騒然。お姉さんが学芸員にフェルメールの質問をする前で出ていった人がいて、何か気に障ったんだろうかと気にしていたが、あとでわかったんだけどそれは私の父だった。下北沢商店街でバドミントンのラケットのガット張りを頼んでいたので、お店の閉店に間に合うように取りに行ったとのこと。見に来るって一言も言わないで来るんだもん、びっくりする。


3月22日(日)

1時集合。当日券待ちの人だと思うが、もう来ている人がいた。
青年団では、各自勝手にウォームアップをする。私は、いまは自分で好きなようにウォームアップや発声をしているが、以前は他人の目とか、他人の発声の声とか、気になってしょうがなかった時期がある。いつ頃から気にならなくなったのかなぁとときどき考えるがよく覚えていない。東京ノート初演の頃からかな?
3時開演。開演中に雨が強く降り出して、ラストで出ていくとき、きっかけの台詞がよく聞き取れないくらいだった。雨どいを伝うらしい水の音が、最後まで響いていた。
ソワレは7時開演。雨はもうあがっていた。一場の初め頃に痰がからんで変な声になりそうになってしまった。最近ずっとのどの調子、よかったのに。途中、救急車の音がして、好恵が「私も電池が切れちゃった」と言ったとたんに消えたのでおかしかった。


3月23日(月)

4時30分集合。稽古で、けっこう私は直された。「ゆっくり見れて」が「もったりする」と言って、演出家がまねして見せてくれた。うまい。「別にそんな、引っ張り回したりしてないわよ」というところが怒り過ぎで、だいたい声が大きすぎる、その声なら芝居をかえなきゃならない(もう1つのグループの人たちが振り向くとか)と言われた。
7時半開演。


3月24日(火)

1時集合。稽古なし。
本番3時。終演後定食屋でサンマ定食。食事が済んで出ようとしたら隣のテーブルにいた女の人が立ってきて、「いまスズナリで見せていただきました」とか挨拶された。
千秋楽は7時半開演。


東京ノート稽古日記 おしまい

このページのトップに戻る
トップページに戻る