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銀行に金を貸す

経済の話題
2000.2.11

日本政府や地方自治体の財政赤字(借金)が今、大変な金額になっている。その金額は600兆円を越えているらしい。600兆なんて言われても実感がわく人はいない。そこでマスコミなどは例えとして、一万円札にして積み重ねると富士山の何倍、だとか、横に並べると地球を何周とか、そういう説明をしているのを時々見る。でも、そう例えられてもやっぱりわからない。それにしても、なぜここまで巨額の借金をかかえることになってしまったのか。

余談だが、一万円札を600兆円分積み重ねるというのは不可能である。ここで「不可能」という意味は、論理的に絶対にできない、という意味である。「現実的に無理」という意味ではない。どういうことかというと、日本には、というか地球上には、そんなに大量の一万円札は存在しないのである。一万円札というのは、紙とインクからできている物理的実体であり、造幣局が作成した「物」である。私の調査が正しければ、地球上に出回っている日本円の現金は、100兆円分もない。つまり、日本の政府や自治体は「この世に存在し得ないぐらい多額の借金」を抱えている、ということが、文字通り言えるのである。

話は変わるが、皆さんの中には、銀行からお金を借りている方も多くいらっしゃることだろう。では、銀行にお金を貸している方はいますか? この質問には、多くの方が「はい、私は貸しています」と答えるべきである。多くの方は銀行の預金口座を持っているでしょう。普通、銀行にお金を預金する行為を「お金を預ける」というが、実はそれは銀行に「お金を貸す」と言ってもかまわない。「預ける」「預かる」「借りる」「貸す」という言い回しで誤魔化されそうになるが、預金だろうが借金だろうが、まとまった金銭をAからBに移動し、その後Bは定期的に利息(または利子)をAに支払う、という構造を持っていることに変わりはない。「お金の貸し借りはしないように」とか言う人が、何の疑問もなく銀行にお金を「預け」ていたりする。実際にはそれは銀行にお金を「貸して」いる行為なのだ。しかし、相手が銀行だとどうも「貸している」という気にならない。これが神話というものの効果である。

さて、最初に政府の借金の話をしたが、今の話を応用すれば、政府が借金しているというのは言い換えれば、政府がお金を預かっているとも言える。これはつまり、政府に預金している、という状態だ。実際、政府に預金するための金融商品があり、商品名を「国債」と言う。借金というといかにも返さなければならないもののような感じがするし、メディアによってそのように私たちは心理誘導されている。しかし、国家に預金していると考えると、それほど悪いことでもないような気もしてこないか。私たちの感覚とは、かくも実にいい加減なものである。だから、「借金」とか「預金」とかの言葉に誤魔化されないよう、本質に注意しなければならない。では財政赤字の問題の本質はどこにあるか。預金や借金のような「資金移動」があったとき、見逃してはならないのは「利息」の存在であり、これこそがこの問題の本質ではないか、と私は考えている。

たびたび話が飛んで恐縮だが、私たちはどういう時にお金をもらい、どういう時にお金を使うかを考えてみて欲しい。まず使う方から考えてみよう。簡単だ。それは品物を買うときである。といっても、洋服や石鹸やニンジンといった具体的な品物を買う以外に、床屋さんに代金を払うとか、宅配便の料金を払うとかなどのように、形を持たないものに払う場合もある。でもよく考えてみると、要するにどんな場合も、誰かが何かしてくれること(あるいはしてくれたこと)の対価としてお金を使うわけである。簡潔に言えば「仕事」の対価としてお金を払っているわけである。
もらう方は? これはもちろん、「自分の仕事」の対価として、給金をもらうわけである。

ということは、世の中の経済は「仕事」と「金銭」の交換が無数に連鎖して成り立っていると言うことなのか? 残念ながらそうではない。「仕事」の対価でなく金銭が動くケースがある。「利息」である。利息とは、まとまった金銭を移動するだけで発生する不思議なお金である。お金を一旦AからBに移動すると、それを元に戻さない限り、Bは永久にAに対して一定の金銭を支払い続けなければならない。利息は「仕事」とは全く関係なく発生する金銭である。現実の経済にはこの「利息」という魔物が巧みに織り込まれているのである。お金を預けた(=貸した)人は、それだけで、タダで利息が手に入る。ということは、どこかにタダでその分を払っている人がいるはずである。

もちろん、利息は直接的には借りた者が払う。しかしその負担は、個人の借金でない場合は大抵は転嫁される。簡単な例で言えば、全ての企業は出資という名の借金により成り立っているから、利息を払っているはずである。なのに、ほとんどの企業は黒字である。つまり利息負担は誰かに転嫁されている。どこかにしわ寄せが行っているわけだ。しわ寄せを喰った者もまた他の者に負担を転嫁したりして、実体はグチャグチャである。じゃぁ最終的に、誰がその負担をしているのか、を、考えてみるのも面白いかもしれない。

最初の話に戻ろう。政府には多額の借金がある。ということは一方で、政府にお金を貸している人がいるということだ。政府にお金を貸している人は、タダでその利息を手にできる。ひょっとしたら、その利息で生活している人だっているかも知れない。政府がもし、現在の借金を返済してしまったら、その利息収入を得ている人達には大打撃になる可能性もある。

さて、もう一度考えてみよう。日本の財政赤字は、なぜここまで巨額なのか。

私の結論:お金持ちになりたい。



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岩城 保(Tamotsu Iwaki)
iwaki@letre.co.jp