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仮説:無断リンクを禁止しても良い

リンクフリーに関する話題
2001.11.10

以前、「リンクの自由は憲法で保証されている」と主張する文章を書いた。それを書いた当時は、リンクは必ずしも自由ではないという主張もまだ根強くあり、それに対抗する意見を提示することは、ネット上の議論としてある程度の有効性を持つと思われた。しかし、この数年で状況は少し変わったようである。もちろん現在でも、リンクする際は事前に許可をとるように、と主張するサイトはあるが、それらはもはや少数派で、今や、リンクは自由というのはネット社会の常識となっており、「リンクフリーといちいち書かなければならないご時世のほうが問題だ」というような主張も多く見かけるようになった。

ところが、である。この時代の流れに乗じて、次のような恐ろしい主張が存在しているのを発見した。

「無断リンク禁止」という行為こそが、禁止されるべきである。

リンクは自由なものであり、「無断リンクを禁止します」という主張は誤っているので、そういう主張は禁止するべきだという考え方である。「無断リンク禁止を筆頭とした、ふざけたリンク禁止を禁止する会」というのも存在するようである。ただしこの会は特に実効性のある活動をしているようには見えないので、この会自体を批判しようとは思わない。問題は、このような会の主張を、つい「そうだそうだ」と賛同してしまう人たちの心理である。

私は、以前と変わらず、リンクは自由であるべきだと考えているし、「無断リンク禁止」という主張は無効だと思う。しかし、だからといって、無断リンクを禁止する行為を禁止して良いとは思わない。

これらは全て、関係はしているが、別の問題である。これらはしっかり区別して議論されなければならない。私は「無断リンク禁止こそを禁止するべきである」というくだんの会の主旨には、断固反対する。リンクは完全に自由であるべきだが、逆に無断リンク禁止というのも禁じるべきではない、ということだ。わかっていただけるだろうか。この私の主張を、単に「矛盾している」としかとらえられない人が多いとすれば、それはとても恐ろしいことである。

仮に「無断リンクは禁止します」というページがあったとする。そういうページに対しても、リンクしたいと思ったら私は勝手にリンクする。そのページは、リンク禁止を主張しているが、しかし実際は誰でも勝手にリンクして良い。なぜなら、無断リンク禁止という主張は「無効」だから。リンク禁止と書いてあろうが、リンクしたいというものを誰も止めることはできない。リンクの権利は憲法で保証されているからである。

しかし一方、全く同様に、「無断リンク禁止という主張」をする権利だって保証されねばらなないと私は思う。「無断リンク禁止という主張」は、たしかに私の主張とは対立する。対立しているから私は受け入れない。だから「無断リンク禁止」と書いてあるページにも必要とあらばリンクする。一方、「無断リンク禁止」と書いてあるサイトが存在できることは、喜ばしいことであると思う。「無断リンク禁止」という表記や、そのように表記したサイトが、不当に抹殺されるようなことがあってはならない。複数の対立する意見があり、それらの主張の間で議論が展開されてこそ、ネットの価値観が健全に培われていくと思うのだ。

私は、リンクは自由であると主張する。法的にも、リンクは自由だという考え方が主流である。しかし、本当は違うかもしれない。リンクは無制限に自由ではないほうが良いかも知れない。私だって人間だから、何か見落としがあるかも知れない。だから場合によってはリンクに制限をかけたほうが良いという考え方だって、可能性としてはあり得ると思えるのだ。少しでもあり得る考えを主張する権利、これこそが言論の自由が保証するところではないのか。自分の権利を主張するあまり、他者の権利を侵害することがあってはいけない。

反対意見の可能性も認めた上で、私個人は、リンクは自由だと信じているし、そのように主張する。ひょっとしたら違うかも知れないという可能性も考慮しつつ、やはり自由なのだと主張する。それで十分ではないか。主張したい者はどんなことでも主張すればよい。しかし、いくら自分の意見が多数派だからといって、いくらそれの法的根拠が強いからといって、反対の意見を禁止する権利は誰にもないはずだ。

何か主張をするなら、それなりの責任、あるいはリスクを負うべきである。主張というのはそういう行為だと私は思う。反対意見に対しては、真摯に議論をするべきである。それなのに、議論を嫌い、反対意見は禁止してしまえば良いという態度、自分たちが多数派であるからと言って、逆の考えを抹殺しようとする態度、相手の発言機会を奪っても何とも思わない無神経。安易な、思考停止の、多数派の横暴。悲しいことに、こういった多数の暴力をさまざまな場面で目にし、耳にすることが少なくない。しかしこのような態度には、私は断固反対していこうと思う。

私の結論:「無断リンクは禁止」と主張する自由もまた、憲法で保証されている。


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岩城 保(Tamotsu Iwaki)
iwaki@letre.co.jp