喫煙者を救え!


●タバコは嗜好品ではない

タバコそのものについても誤解されていると感じることが多い。タバコについては、中毒性が不当に隠されて情報が流布されているのではないかと思う。例えば、タバコは普通嗜好品に分類されている。断言するが、タバコは断じて嗜好品ではない。タバコ(正確にはニコチン)は「依存性薬物」である。依存性薬物は、摂取が一度習慣化すると摂取を中断した時に禁断症状が起こるようになり、やめにくくなる。タバコはこの性質を満たす薬物である。

他に嗜好品に分類される依存性薬物に、酒(アルコール)やコーヒー(カフェイン)があるが、アルコールは「酔う」という効果、カフェインは「目が覚める」等の効果があり、また酒やコーヒーには「おいしさ」がある。「おいしい」というのは、味付けに使われる、ということである。「お酒の入った菓子」や「コーヒー味のケーキ」などがあるのは、お酒やコーヒーにある種の「おいしさ」があるからである。またお酒やコーヒーは、「摂取をやめなさい」と仮に医者に指示されれば、普通の人はやめることができる。ということは、依存性もかなり低い。だからこれらは「嗜好品」と言っても差し支えないと思う。

ところが一方、タバコは摂取したときの「効果」がほとんどゼロである。つまり、良い気持ちになったりとか幻覚を見たりとか、ハッピーな気分になったり目が覚めたりということが無い(「いや効果はある」と思っている方、それは「効果」ではなく、禁断症状の緩和が自覚されているだけである−−前述)。その上、味もまったくおいしくなく、味付けや香り付けには使えない。例えば仮に、タバコの香りのケーキを作ったとしても、ヘビースモーカーだってそんなものは食べたくないはずである。タバコは本質的に「まずい」ものなのである。また、「タバコをやめなさい」と医者に指示されてもやめられない人がたくさんいる。つまり依存性は非常に高い。こんなものは嗜好品とは言えない。

今、タバコは本質的に「まずい」と述べたが、実際はタバコを「おいしいから吸っている」と思っている喫煙者がいるようである。しかしそれは錯覚である。私はずいぶん前から、「タバコはまずい」ということに気がついていた。

愛煙家のあなた、「タバコはまずい」という私の意見に納得できないですか?

では「自分はタバコの味が好きだから吸っている」という方にお尋ねしよう。市販のタバコの中で、「まずい」と思う銘柄はありますか?

あるはずです。市販の全銘柄を「全ておいしい」と思う喫煙者はいません。はい、まずいと思う銘柄は見つかりましたね。その銘柄はあなたにとって、確実に「まずい」。では、明日突然、ほとんどの銘柄のタバコが発売中止になり、その「まずい」銘柄しか入手できなくなったとします。あなたはその銘柄は「まずい」から吸わないですか?つまり、まずいタバコしかない状態になれば、あなたはタバコをやめますか?

残念ながらあなたの答えはNOである。喫煙者は、どんなにまずい銘柄でもタバコであれば吸う。それは、求めているものが「マイルドセブン」でも「キャスターマイルド」でも「マールボロ」でもなく、実は「ニコチン」だからである。今は「まずい」と思う銘柄でも、吸い続ければ必ず慣れ、まずさを忘れてしまう。そもそも、どんな銘柄も、最初はまずいのである。生まれて初めてタバコを吸った時のことを覚えているだろうか。あの時はあんなにまずかったのに、今ではもうすっかり慣れてしまっているでしょう。

タバコはまったくおいしくない。効果も無い。しかし依存性は強い。タバコを吸うと、吸った時点では何も自覚効果がないが、ニコチンは肺から確実に吸収される。そして喫煙をやめると体内のニコチンは減少を始め、数時間も吸わないでいると弱い禁断症状がやってくる。しかしそれはあくまで弱い。どこも痛くも痒くもならず、寒くも暑くもならない。ただひたすら「タバコが欲しい」という感じがするだけである。TVドラマの麻薬中毒患者に見るような悲惨な禁断症状に比べれば、全く軽く、弱いものである。しかし、依存状態を保つのには十分な強さである。 このように、タバコは「依存性」という性質だけをピュアに持った、中毒になる以外は何の役にも立たない、無意味なドラッグである。 こんなつまらないものが、なぜこれほど広く出回っているのか。

この素朴な疑問。「依存性だけしかない」ものが、なぜ出回っているのか。タバコを 18年間吸い続けて、一度も考えなかった疑問。 この疑問に答えが出た瞬間、私はタバコをやめることを決意した。


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岩城 保
iwaki@letre.co.jp