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4.基本プラン


前章でも書いたとおり、プランの作成は、おおむね通し稽古を2回程度見た後です。その時点で、プランを作成するために必要な情報が全て出そろうからです。プラン作成に必要な情報とは
     
  1. どういう劇場でやるか  
  2. その劇場に、どういう舞台装置(セットとしての家具等を含む)が立つのか  
  3. その装置の中で、役者(衣裳を含む)はどう動くのか
です。

最初に、劇場の資料を見てどんな照明機材がどれくらいあるかを全体的に把握しておきます。青年団の場合は、ハロゲンのフレネルスポットが基本です。ハロゲンというのは電球の種類で、普通の白熱電球よりも明るい電球です。 フレネルというのはレンズの種類で、同心円上にギザギザしたレンズです。ピンスポットや凸レンズのスポットは、照射した光の輪郭が丸くくっきり出ますが、フレネルスポットの場合はボヤッとなります。ハロゲンのフレネルスポットの製品は、丸茂の「FQ」、RDSの「QS」、松村の「FI」などが代表的なものです。

もちろん、「ハロゲンのフレネル」はあくまで基本、理想であって、これが無ければできないというわけではありません。例えば凸レンズのスポットも使用します。これにはデフュージョンフィルタ(磨りガラス状のフィルタ)を入れてフレネルのようにして使います。

これらを含め、全体の機材数をだいたい把握してからプランを開始します。機材の数が不足しそうな場合は縮小したプランを考えたり機材の持込を検討したりしますが、ここでは機材数が十分あるとして話を進めます。

照明を考える際の基本的事項として二つの重要な点があります。

第一に、照明を光源から考えるのではなく、光の当たる対象から考える、ということです。つまり
 
× ここにライトを設置できる。どこにあてようか。  
○ ここに照明をこの方向からあてたい。どこにライトを設置しようか。
ということです。

第二に、舞台装置などは後回しにして、まず、役者にあてる照明から考える、ということです。

最初に、役者が最も長時間滞留する場所から考え始めます。それは多くの演目の場合、中央のテーブルの周辺に置かれた椅子です。「暗愚小傳」「ソウル市民」「S高原から」「北限の猿」など数多くの作品で、舞台中央にテーブルまたは机があり、その周辺に椅子が4〜6脚あって、役者はそれらの椅子に座っている時間が一番長く、セリフもそこで一番たくさん喋ります。その中の一つ(仮に「椅子A」とします)について考えてみます。

Aという椅子に座るシーンで、座った役(役者)について、どちらの方向とのコミュニケーション(関係)が劇中で多いかを考えます。例えば椅子Aに座った役(者)は、全体的に見て
としたら、それぞれの割合を

という感じ(極めておおまかです)で考えます。そうすると、椅子Aについて、方向による関係の強さを表す、レーダーチャートのようなものができます。(「レーダーチャート」とは?

そして、各方向からの光の強さがそのレーダーチャートの通りになるように、ライトを配置します。

劇中であまり注目されない、あるいは役者があまり行かない場所(舞台のはじっことか)は、コミュニケーションそのものが少ないですから、全体として小さなレーダーチャートになり、結果として相対的に暗めになります。

方向と明るさはこれで決まります。次に角度(低い角度=真横にちかい、高い角度=真上に近い)を決めます。角度は、滞留時間が長い場所はより低い角度、短い場所は高い角度という原則で決定します。ただし、角度は45度を下限とします。45度から90度(真上)の間、ということです。

この原則で、その他の場所も方向・明るさ・角度を決めていきます。

例えば登退場口付近は、
ですから、
ということになります。

なお、実際には滞留時間とコミュニケーションの量は相関があり、おおむね滞留時間の長い場所ほど、多くのコミュニケーションがあります。また、滞留時間は舞台周辺部より舞台中央付近が長いことが多いです(あくまで青年団の場合)から、結果として大抵の作品では、舞台中央付近は明るく低い角度、舞台周辺は暗く真上から、という感じになります。

別の例として、青年団の照明の有名な特徴である「舞台最前部に客席に背を向けて座ると背中が暗い」という法則を今の原則で説明してみます。舞台の一番前は舞台の端ですから、そこで持つ関係は常に舞台の奥方向とであり、劇中で客席方向と関係を持つことはあり得ません。だから客席方向からは光はまったくあたらず、背を向けて座ればその背中は暗くなる、というわけです。

以上が私の照明の基本です。これは一部関係者の間で「岩城DOS」と言われています。

この「岩城DOS」に基づいて基本プランを作成します...というのは嘘で、実際は勘でバンバン書くんですが、たぶん無意識に上記のような論理で考えているように思えます。そのあたりは自分でもよくわからないんですが、今までの自分のプランを分析してみると、上記の理論が実によくあてはまります。

「岩城DOS」は、私が何となく勘で作ってきた照明について「後付け」された理論です。もうちょっと綺麗な言葉でいうと、「帰納的に発見された法則」とでも言いましょうか。いずれにしても、既に述べましたがプランを作成する際は、どんな理論も原則も、それを前提にすることはありません。前提にはしませんが、現状で自分のやっていることはどうなっているのか(=結果)を分析するのは重要なことだと考えています。



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