東京ノート再演 私の稽古日記

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平田オリザの代表作「東京ノート」は、1994年に青年団第27回公演として初演され、1998年に同第34回公演として、名古屋市をはじめ全国各地で上演されました。これはその再演時の私の稽古日記です。公演自体は1998年4月以降も続きましたが、ここには同年3月の東京公演終了までの日記を掲載しました。

1997年1998年
11月12月1月3月
1998年2月は、稽古なし

1997年 12月


12月2日(火)

初演の時の衣装を着てみた。やっぱり、これでいこうと思った。


12月3日(水)

3場の「いたよ、いたよ」と戻ってくるところを初めてやった。
「ああ、なんだ。いたいた」という台詞があって、慎也に向けて言っていたら、演出から、「ああ、なんだ」は慎也、その後の「いたいた」は好恵に言うように言われた。つまり、「いたいた」は、「あんたたち、ここにいたんだね」という意味じゃなく、「お兄さんたち、ここにいたよ」という意味だってこと。
初演の時からずっと同じ方向性でやっていたので、「それは初演の時からそういうつもりの台詞だったの?」と聞いたら、「うん。おかしいなぁ、言おうかなぁと思ってた」と、半分冗談だと思うけれど言われた。
やらないと思っていたラストもやった。


12月4日(木)

1場のアタマで、由美好恵の登場と、木下野坂の登場のタイミングが重なることになった。
由美の小道具でカメラが要るので、稽古のあと見に行った。「新システムで、ズームがあって、ストロボを強制的にたけるやつ」という条件で見せてもらった。これがいいですよと勧められたのは、「一番売れてます!」と書いてあるコニカので、定価38,000円。


12月5日(金)

朝食を食べていかないで、身体を動かした後食べる作戦にしたら、発声をする時間がなくなり、稽古中のどがイガイガしてしまった。
稽古は3場。由美好恵2人のシーン(ここだけはすでに1回稽古してあった)は飛ばすかと思っていたらここもやったので、ちょっとあせった。


12月6日(土)

やはりウチで朝食を摂ってから行くのがいいようだ。昨日は30分のウォーキングで心拍数が120くらいにしか上がらなくなったので、きょうはところどころジョギングを入れてみた。ちょうど140くらいになった。
先日演出が、キャストを増やすかも、と言っていたが、増える3名がきょう発表になった。これに伴い、一部配役が変更になるかもしれないとのこと。
買ったカメラに付いてきたソフトケースは、マジックテープ開閉で「ジャッ」とうるさい。ケースを手作りしようと思う。フェルトのような黒い布をだいぶ前に買ったのがあるはずなので、それを主材料にし、口元にゴムを縫いつける予定。黒い平ゴムを買った。


12月7日(日)

稽古休み。美容室に行った。美容師さんと相談して、「セットすれば由美の役柄っぽくなって、普段もかっこいい髪型」というのにしてもらった。パーマをかけて、2時間弱で終了。


12月8日(月)

家にあったトランシーバのカバーがカメラにちょうどぴったり(ちょっときつめ)だったので、稽古用に借りている。
石田須田のシーン。須田役が確定してないので、候補3人でそれぞれ何度もやった。役の決まっていない人は大変そうだ。そうとうピリピリしている人もいる。すごくわかるけど、不安で神経質でおどおどした気持ちになっちゃうと、うまくない。ポジティブで上機嫌でいないと自滅しちゃう。
郁恵が帰ってきて家族(茂夫以外)がそろうところまでも稽古した。家族はみんな台詞がちょっと不安で、変な間があってぎくしゃくしていた。
由美好恵郁恵3人でしゃべるところでは、郁恵役の俳優のことが「かわいくてしょうがない」という気持ちになった。ここんとこ彼女が外部出演のため稽古を休んでいて、久しぶりに会ったせいだろうか。演出に、もっときびしく対応するように、と言われた。
夜になったら左膝が痛み始めた。稽古前にきょうもウォーキングに行って、少しジョギングも混ぜたが、やっぱり走るのは膝に負担がかかるんだろうか。バルカン動物園の本番中みたいに痛くならないといいのだが。走ると気持ちいいので、できれば走りたい。


12月9日(火)

歯医者に行った。来週もう一度は行けるけど、その後おそらく1月末まで通えない旨、伝えた。来週抜歯するかもしれないけど、その後来れなくても大丈夫なようにしてくれるそうだ。


12月15日(月)

稽古再開。
石田須田のシーンで、台詞の意味を演出に直された。
「写真見た、入園式の。」
「お父さん、すごいはしゃいでたでしょ。」
というところ。
私は、

と思っていたので、
(送ってあげた、写真、見た?)
(あのときお父さんたらすごくはしゃいじゃってたよねぇ、覚えてる?)
というふうにしゃべっていたけど、演出の言うには、

ということなので、
(お父さんが撮った写真、見たよ)
(写真で見たけど、あのときお父さんすごくはしゃいでたみたいね)
のように言い方をかえた。
夏に友人の結婚式の時に見たお父さんのイメージが浮かんだ。


12月16日(火)

上の親知らず2本を抜いてもらってから、すぐ稽古に行った。サ行を言う感じが少し違った。
1場、冒頭から、石田須田が通るとこら辺まで。「きょうのマチコはいい人すぎる」と言われた。声が高くなると、どうもそういう傾向があるらしい。
あと、茂夫のところも稽古した。
好恵由美平山の写真を撮るところで、カメラのシャッターがおりなくなってしまった。電池不足か?
こないだからずっと、のどが変で、きょうも痰が絡んで声がガラガラしたりした。原因が不明なんだけど、発声練習を綿密にやるほかに、対策が思いつかない。


12月17日(水)

きょうは15分くらい発声をやった。昨日よりはのどの調子がいい。だけど、まだ痰が絡む。「稽古」というとおかしくなるので、のどに力が入ってしまっているのかもしれない。
カメラは、新しい電池に入れ換えてもダメで、機械に強い人に見てもらったら、「フラッシュのバッテリーが充電されなくなっている、故障らしい」ということ。買った店に明日持っていくことになった。
きょうまでアゴラでの稽古だったが、明日から森下の稽古場に移るので、稽古終了後ソファなどの積み込みをした。


12月18日(木)

カメラは、あっけないほどすぐに新品と交換してもらえた。
あすから仕事でしばらく来れない人がいて、きょうは、その人たちのいるシーンを中心に稽古した。それで、めずらしく私の稽古が少なかった(出番が少ないと自分の稽古のない日もあるけど、東京ノートでは私は出番が多いので、だいたい毎日稽古がある)。


12月19日(金)

稽古開始30分ほど前に稽古場に到着。もうちょっと早く行きたかったのだが。稽古場付近でウォーキング。土地勘がないので、15分進んでその同じ道を戻ってくるというプランで歩いた。広い道路がなく交通量も多すぎないので、なかなかよかった。
初演の時の靴を持っていって稽古ではいた。ヒールが2cmほどで、こんなに低かったのかと驚いた。もう少しヒールのある靴にしようかと思っている。
稽古は、1場のアタマから。好恵と二人で話してるところは、相手と自分だけだから割と集中してやりやすい。家族がそろうとこは、人が多くて楽しいが、楽しすぎてはしゃいでしまったりする。
郁恵と喧嘩するシーンで、「いまそのことを話してたんでしょ」と言われて「え、何」と聞くところ、前とがめるような感じで言ってたのをきょうほんとに質問してるみたいに変えたら「脳天気すぎる」と言われて元に戻した。


12月20日(土)

ウォームアップとして、きょうは40分ほど歩いた。川べりに行ってみた。
きのうの続きの「深刻シーン」以降、家族みんながそろうとこまでをやった。深刻シーンを最初にやったとき好恵が静かに笑い続けていてなんか怖かったなぁ。うまいと思ったけど。
初演の時、私は、全体的に一つのトーンというか雰囲気で統一するのでせいいっぱいだった。今回、稽古の最初に、「相手との微妙な関係の違いを出してほしい」と演出から言われた。改めて台本を読み直すと、たしかに相手によって言葉や話題がちがっているし、そういうところを細かくやろうと思ってやってる。
遅くまで稽古だったので、夕食休憩があった。好恵サンと一緒に、おかずを一つ一つ選んでご飯やみそ汁も付けられる食堂に行った。もう夕方だったのでビールやお酒を飲んでる人もいた。また行きたい。


12月21日(日)

一場、私の退場まで。新しく増えた役(来館者たち)がからんで、にぎやかになってきた。どこでだれが入るかまだ把握できていない。
学芸員が去った後〜喧嘩〜私たち二人の退場〜。
石田須田のシーンで、さらに2枚写真を撮ることになった。


12月24日(水)

なんかきょうは自信のない日で、上機嫌でやるのがなかなかむずかしかった。電動歯ブラシとお父さんの話のところなんか、いつダメが出るかとびくびくしてた。出なかったけど。
きのうから龍角散を飲んでいるせいか、のどに痰がからまなくなった。龍角散って、舌の上にのせてゆっくり溶かしながら飲む、って知らなかったよ。
稽古の後、靴(衣装)を見に行った。冬のせいだと思うが白系の靴が少なく、これは、という物がなかった。「これでもいい」という60点くらいのは見かけたが、それだったら今使ってるやつでいいので、サイズがあるかどうか聞きもしなかった。とにかくすごい人出で、それで疲れてしまった。


12月25日(木)

姉妹の言い合う、「喧嘩」シーン。台詞と台詞のつながりがない、とダメが出て、時間がかかった。なんか、見直さなきゃいけないとこがずいぶんあるんじゃないかと、心配っていうか、心配じゃないけど、方眼の眼を細かくする作業はまだまだこれからだ、と思った。
夫婦写真を連続して撮るところで、ストロボの充電が間に合わなくなってきた(最初は大丈夫だったと思う)。今度シャッター半押しにするタイミングを早めてみよう。それでダメなら、ズルっこだけど2枚目の写真はピンぼけで行こう。家族のシーンは、なかなか段取りよく進むようになってきた。
ラスト。「すごくよく見るでしょう、物を...」のところがうまく行かなかった。前回「並列にしないように」と言われたもんで、係り受け、係り受けでつないだらすごく流ちょうになっちゃって、「こんな生き方の下手な人がそんなに流ちょうにしゃべらない」と言われた。言いながら、言葉を選ぶこと。そして、相手を見過ぎないこと。あと、「すごくよく」が「見る」につながっていってない、と言われた。
家でラストと、角のとこと、もう幼稚園かのとこを自主練した。


12月26日(金)

仕事で稽古をしばらく休んでいた人たちが、復活。その人たちのシーンをアタマからやっていったので、私はあまり稽古がなく、前半寝ていた。
学芸員平山とフェルメールの話をする一連のところは、おもしろくてどんどんパワーアップしている。ときどき、私こんな大声でしゃべってていいのだろうか、と疑問に思う。


12月27日(土)

稽古のときはだいたいジャージを着てるが、衣装がスカートなので、きょうはスカートをはいて稽古してみた。座り方、座るときに裾に気をつける、など、やはり違いがあった。あすからもスカートで稽古しようかな。


12月28日(日)

きょうの稽古は、細かくとめないで、割と流して続けていく形だった。
1場でトイレから戻ってきて「おまたせ」というタイミングは、もう1つのグループのほうの台詞に合わせて取らないとダメなことがわかった。いままでは、好恵と目があったら言っていたので、割とばらつきがあった。「こちらになんかお持ちしましょうか」「え?」の後、「コーヒー」と同時に言えばちょうどいい。
それから、一場のはけるときの写真は、「ラウンジ」を聞いて「中じゃとれないからね」、「自動販売機」が聞こえたら「撮りまーす」でいいようだ。ちょっといままで日によってずれてたから、自分としてはこれらをキューとしてしばらくやってってみよう。
1場の終わった後、稽古場で寝ていて、寝るのは一応OKなんだけど、寝息がうるさくて稽古の邪魔になるので、おこられた。


12月29日(月)

第一回通し稽古。
登場して、最初座るまで落ち着かなかった。
通しの後ダメ出し。いくつかあったが、ラストシーンが二人とも稽古通りでない、定着していない、と言われたのは意外だった。そんなに稽古してないし、「すごくよく見るでしょう...」の台詞は言い方を考えておくように言われていたから、前とかわるのは当然だと思っていた。だけど、改めて考えてみると、稽古でやってないことを通し稽古でいきなりやっちゃいけないことになってるんだから、前のとおりにやるべきだったかもしれない。


12月30日(火)

離婚の話のシーンから稽古する予定になっていたが、アサイチで深刻なシーンはどうも...と演出が言って、その後の、由美好恵が昼食の話をするところからやった。語尾、間、単語単位の言い方など、けっこう細かくダメ出しされた。家族みんなでディナーに行くところまでやった。
他の人への演出だけど、「そこは、台詞の途中で身体を後ろに引くからウソっぽくなる。身体を引くな」という指示があり、いままでどうしてもうまくできないでいたところがそれによって改善されたのを見て、演出の的確さに感心した。


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