内田樹「呪いの時代」より

内田樹先生の、「呪いの時代」を読んでます。素晴らしい本です。とても感動した一説を引用します。

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 ここに腕力の強い人間がいて、おのれの力を誇示し、他人を威嚇して、金品を奪っていたとする。これは許し難いことだと誰でも思います。逆に、その例外的な筋骨の力を使って、足弱な人の荷物を代わって持ってあげるとか、道に倒れている木や岩を取り除いている人がいれば、「正しい使い方をしている」と思う。単純な理屈です。でも、同じことを知性についてあてはめようとすると、ほとんどの人は同意してくれない。知力だって筋力と同じだと僕は思います。たくさんある人はそれを使って困っている人の荷物を代わりに持ってあげればいい。それが知性のいちばんまっとうな使い方ではないですか。おのれの知力を使って人を圧倒したり、論破したり、揚げ足を取ったり、あるいは鮮やかな弁舌やトリッキーな議論を駆使して、自己利益を増大させるのは知性の人間的な使い方ではないと僕は思います。
 背の高い人は高いところの物を手が届かない人のために取ってあげることができる。鼻のいい人は鼻のきかない人のために「お鍋が焦げてますよ」と知らせてあげることができる。そういうものでしょう。自分に例外的に与えられた能力は、それを持たない人たちの役に立つように使うべきです。それを持たない人たちを見下したり、そのアドバンテージを利用して金儲けをするために使うものではない。

----内田樹「呪いの時代」P.187-188


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